| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-09

ため池管理のための数理モデル: 水生植物がアオコの発生に及ぼす影響

*瀬戸繭美 (国立環境研環境リスクセ), 高村典子 (国立環境研環境リスクセ), 巌佐庸 (九大理)

浅い湖沼やため池では栄養塩負荷により、水草の優占する濁度の低い状態からアオコの発生した濁度の高い状態に急激に変化(レジームシフト)することが知られている。アオコの大量発生は水生植物の減少や水質の悪化といった、淡水生態系における生物多様性・生態系機能の損失に繋がるため、アオコ発生現象の理解とその抑制のための水質管理手法を検討することが重要である。本研究ではため池におけるアオコ発生のメカニズムを理解するために、生活形の大きく異なる浮葉植物と沈水植物の存在に着目し、両者がアオコの発生に対してもたらす影響について数理モデルを用いて調べた。浮葉植物と沈水植物は光・栄養塩についてアオコを形成する植物プランクトン(藍藻)と競争関係にあり、アオコの発生に対しそれぞれ異なる影響をもたらしうる。浮葉植物は光を巡る競争で植物プランクトンより有利である。一方、沈水植物は水中のリンを固定することで植物プランクトンが利用可能なリン量を低下させる効果を持つ。モデルの解析とシミュレーションの結果、浮葉植物はため池におけるリン除去効率が高いときにアオコ抑制効果を発揮することが示された。沈水植物は水中のリンを利用することで水中からリンを除去する役割を担う。このため、浮葉植物は沈水植物と共存することで高いアオコ抑制効果をもたらすことが示唆された。しかしながら、植物同士の競争によって沈水植物が競争排除された場合、浮葉植物の存在によってアオコの発生がむしろ起こりやすくなる場合があることも示された。


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