| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) D2-03
これまで最適採餌理論は、エネルギー摂取率を最大にするという考えを基盤にしていた。しかし自然界では、エネルギー摂取率を最大にするのが最適とは限らない。化学量論(C:N:P比)から見ると、陸上生態系では、植物のC:N比は昆虫の C:N比より高く、昆虫の成長はN制限になりやすい。また淡水生態系では、植物プランクトンのC:P比は動物プランクトン・巻貝・水生昆虫のC:P 比より高く、それらの成長がP制限になりやすい。このように捕食者の成長がNやP制限の時、エネルギー源となるCの摂取率を最大にしても、成長量は最大にならない。そのため、化学量論による制約の元、成長を最大にする最適採餌理論を構築する必要がある。
実験研究においては、捕食者の成長がNやP制限の時、不足したNやPを補うために、通常より摂食率を増加させることが観察されている。このような摂食率の増加は補償摂食と呼ばれ、最適摂食率がCだけでなくNやPの摂取率にも影響されていることを示している。しかし補償摂食のモデルは構築されておらず、補償摂食が見られる条件も明らかとなっていない。
そこで本研究では、ミジンコを対象生物とし、化学量論に基づいて成長量を最大にする最適摂食率のモデルを構築した。摂食のために消費するエネルギーは植物プランクトンのCから得るとし、消費するエネルギーが大きいほど濾過できる水量が多くなり、摂食率が増加するとした。そして、ミジンコの成長量を最大にする最適摂食率を計算し、補償摂食が見られる条件を調べた。植物プランクトンのP量を変化させて最適摂食率を調べると、P量が少ない時は最適摂食率が増加した。しかし、最適摂食率はP量だけでなく、植物プランクトンの密度やCの同化効率にも影響を受ける。これらの結果をもとに、実験で観察されたミジンコの摂食行動との比較を行い、議論する。