| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-01

ヤクシカの個体群管理計画とモデル事業の意義と評価

*立澤史郎(北大・文・地域), 手塚賢至(YOCA), 川崎勝也(屋久島町)

屋久島では、自然植生の衰退と農林産物への食害を引き起こしているニホンジカ(ヤクシカ)の全島的な密度管理(低密度化)が課題となっている。屋久島での生態系保全やヤクシカ管理に関わる法体系や実際の線引きは複雑を極め、島全体での個体群管理が非常に難しい状況にあったため、これまでは、農林業被害は地元行政(旧上屋久町、旧屋久町)と林野庁(森林管理所)、生態系被害は研究者・地元NGOと環境省というように、被害内容や管轄ごと別個に対応が行われていた。しかし、2005年以降、ヤクシカの増加状況を示す調査結果が共有され、また世界自然遺産の再評価を控えて、統合的な個体群管理と立場を越えた協力体制が必要との認識が広まり、2006年からは島民主導のヤクシカモニタリング(既報)が、また2009年には、屋久島生物多様性保全協議会、屋久島町野生動物保護管理ミーティング、屋久島世界自然遺産科学委員会が立ち上がり、ヤクシカ対策に関する合意形成が急速に進んできた。この体制の特徴は、国(環境省、林野庁)と地元(屋久島町)がそれぞれイニシアティブをとって進める合議の場が、相互の討議内容を受ける形で進められ、そしていずれの中核にも状況を把握した島民と研究者が参画して議論の効率と風通しをよくしている点にある。また各主体が、法的にはヤクシカ特定管理計画策定(県所轄事項)の実現を、また実務的にはヤクシカの分布中心と目される前岳山麓部(国有林と町有地の境界部)での捕獲パイロット事業の実現をめざして調整を進めている点も、所轄や規制が複雑に入り組んだ状況では例外的な特徴といえる。ここでは、このような状況が実現した経緯や現在調整中のパイロット事業の内容などを紹介し、それらがヤクシカの個体群管理や屋久島における生態系保全にとって持つ意義や課題を議論したい。


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