| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) E1-09
キシノウエトタテグモは国の準絶滅危惧種に指定されている穴居性のクモである.本研究では個体群動態モデルを用いて本種の絶滅確率を推定し,現在の危機状況を評価した.さらに感度分析を行うことで,個体群動態に大きな影響を与える生活史パラメータを同定した.
まず野外調査にて本種の巣穴径を毎月中旬に計測し,得られた巣穴径組成から,混合正規分布の分解手法を用いて年齢組成と成長曲線の推定を行った.調査は2008年4月から11月,2009年4月,5月の計10ヶ月間,東邦大学習志野キャンパス(千葉県船橋市)にて行った.次に組成分解にて得られた推定値から各齢群の個体数を求め,これを利用して各齢群間の生存率を算出した.加えて,産卵割合と産卵数をもとに推定した繁殖率をパラメータとして与え,50年間の個体群動態のシミュレーションを100回行い絶滅確率を求めた.さらに感度分析として各パラメータを1つずつ変化させて同様のシミュレーションを行い,個体群動態に対してより大きく寄与するパラメータの同定を行った.
結果,現状での本調査地でのキシノウエトタテグモの50年後の絶滅確率は1%であった.ここから,個体群を取り巻く環境に今後も変化がなければ,本調査地での本種の個体群存続可能性は高いといえる.一方,感度分析によると,個体群動態には生存率のパラメータが最も大きく影響することがわかった.ここから,今後より精度の高い個体群動態モデルを作成するためには,モニタリング等により生存率に関する調査に力を入れるとよいといえる.
本調査地は元々たくさんの個体が生息しており比較的安定した個体群と考えられるため,今後は他の危機的な個体群にも適用を試みることで,手法の確立を目指したい.それとともに具体的な保全策を講じていくことが今後の課題である.