| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-03

シカの嗜好性解析と植生管理による被害軽減の可能性

*小池文人(横浜国大・環境情報)

野生のシカによる野生植物の食害が増えており,地域から嗜好性の高い植物が消滅しつつある.屋久島の低地の森林において植物種の嗜好性を調査し,様々な管理下にある植生で被食圧を測定した.

ラインセンサスによりシカが到達可能な植物の茎葉の食害の有無を株単位(不明瞭であれば50cm四方単位)で判断した.地点の食害確率の高さを種ごとに比較して1対1の星取り表を作り,多地点を総合した表から固有ベクトルを求めて嗜好性値とした.この嗜好性値をもとに地点の被食圧(その地点で半数の株が食害される植物種の嗜好性値)を求めた.

調査した種の中ではルリミノキ類やツルラン類,キノボリシダ,シロヤマシダなどで嗜好性が高く,今回観察された最も低レベルの被食圧ではこれらの種が地域絶滅する.これより被食圧が高い地域では森林の骨格を構成するヤブニッケイやスダジイ,イヌガシなどの樹木種やアオノクマタケラン,ウラジロなど下層植生優占種が食害を受けるが,ツバキやサザンカ,ハイノキ科,ヤマモモなどによる森林が成立する可能性がある.今回の調査で最も嗜好性が低い植物はハスノハカズラやイシカグマ,クワズイモ,樹木ではアブラギリやヤマモモ,クロキなどであった.

隣接した植生であっても,下層の刈り払いをおこなったスギ植林地や,道路脇の開けた草地などで被食圧が高かったが,照葉樹林や下層の刈り払いをおこなわずにシシアクチやヤマビワなどが密な低木層や亜高木層を形成しているスギ植林地では被食圧が低かった.この結果は,地域全体の植生を照葉樹林に誘導することで,地域全体の被食圧を低下させることができる可能性を示唆する.スギ植林地では亜高木・低木層を保全した施業が重要である.道路脇に草本植生ができるので,林道は可能な限り少なくすることが望ましい.


日本生態学会