| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) F2-09
グローバルな炭素循環において、陸域の土壌有機炭素は土地利用や気候の変化よっては大きなCO2の放出源となる可能性があるため、その環境応答は将来の炭素収支を予測する上で重要な要素となる。本研究では、森林減少が土壌炭素動態に及ぼす影響を明らかにするため、東南アジアの代表的な土地利用について土壌調査を行い、現地のデータと陸域生態系モデルの両側から森林から農地への転換が土壌炭素動態に与える影響評価をおこなった。
半島マレーシア・パソ保護林と周辺のアブラヤシ園を対象に、陸域生態系モデルVISITを適用してシミュレーションを行った。VISITでは森林から農耕地への転換における炭素収支の変化を計算できるが、大きく変化するのは主に地上部植生と土壌の分解率である。しかしながら、土壌環境の調査結果では粒径組成や土壌三相率、土壌孔隙率などが大きく変化していた。また、モデルによる土壌の炭素フラックスの予測では、森林では良く予測出来ているのに対し、アブラヤシ園では実測値と予測値に違いがあった。これらの野外データの結果に基づいてVISITモデルの改良を行った。主な改良点は、1)土壌水分の移動をダルシー則に基づき計算するようにした、2)森林から農地への転換時に土壌のパラメータ(粒径組成や物理特性)を変化するようにしたことである。ダルシー則で用いる飽和透水係数の値は、土壌の粒径組成と孔隙率から計算されるため、土地利用形態後の土壌水分条件の変化をより精度高く再現できる。また、土壌水分条件の変化により地上部の光合成生産も影響を受けることになる。これらの改良前後の結果をもとに、土壌環境の変化が生態系の炭素動態に与える影響について議論を行う。