| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G1-04

無胚乳種子の進化:雄親の逆襲

酒井 聡樹(東北大・生命科学)

被子植物の種子には以下の3型がある。

1)有胚乳種子。

2) 無胚乳種子:胚が早期に胚乳を吸収してしまい、胚が、母体から直接資源を吸収するようになる。

3) 無胚乳種子:種子完成時には、胚による吸収のために胚乳は消失している。しかし、種子発達時には胚乳が存在しているため、胚による直接吸収は行われない。

なぜ、このような3型が進化したのであろうか。

本研究では、資源吸収における雌雄の対立が3型の進化をもたらしたという仮説を提唱する。多くの被子植物では、胚乳のゲノム比は雌親由来:雄親由来=2:1である。そのため資源吸収において、雌親の要求が通りやすい状況にある。一方、胚のゲノム比は雌親由来:雄親由来=1:1である。したがって、胚による直接吸収が行われれば、雄親の要求が通りやすくなる。そのため、胚による直接吸収を巡る雌雄の対立が生じうる。

ゲーム理論を用いて、この仮説が働くかどうかを調べた。受精胚珠の胚乳は、母体からの資源吸収を開始する。つづいて、胚による、胚乳からの資源吸収が起こる。種子成熟前に胚乳が完全に吸収された場合は、胚による母体からの直接吸収が起こる。こうした吸収速度には、雌雄由来の遺伝子がそのゲノム比に応じて影響する。胚乳による母体からの吸収・胚による胚乳からの吸収・胚による母体からの直接吸収のそれぞれには、過吸収成長による死亡コストが伴う。種子発芽にかかる時間が短くなるため、胚乳よりも胚に資源を貯蔵しておく方が有利である。

解析の結果、以下のことがわかった。有胚乳種子は、胚による胚乳からの吸収と胚による母体からの直接吸収の死亡コストが高い場合に進化する。上記 2) の無胚乳種子は、胚による母体からの直接吸収の死亡コストが低い場合に進化する。これら以外の場合は上記 3) の無胚乳種子が進化する。この場合、種子完成時に胚乳がちょうど消失することが進化的に安定である。


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