| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) G1-05
冷温帯落葉広葉樹林に生育する夏緑性植物は,林冠閉鎖前の強光環境で開葉し,閉鎖後の弱光環境でゆっくりと晩夏まで成長し開花結実する.林冠閉鎖後に古い葉を維持しながら順次展葉する高茎草本は,弱光環境を利用していると予想される.また,生育期間中に異なる光環境(強光・弱光)の両方を利用する炭素固定様式は,成長と繁殖への資源投資の季節的なパターンを反映しているだろう.そこで,多年生の夏緑性高茎草本植物ミミコウモリにおいて,生産と資源分配の季節変化および繁殖コストとその関連性について調査した.単位面積あたりの光合成速度(Aarea)は光有効性に合わせ低下したが,個体としての炭素獲得量は林冠閉鎖後の葉面積の増加により強光環境と同程度に行っていた.地下茎の貯蔵資源は,春先の地上部成長に貢献しており,開花期までに当年の成長を完了した.花維持は光合成産物をすぐに転流することにより支えられていたが,果実成長期にはAareaが低下するためその貢献は小さかった.これらのことから,繁殖活動は開花期間中の光合成産物により行われており,貯蔵器官の成長とは時間的に分離していることが明らかになった.ミミコウモリは,弱光環境に馴化した葉により夏の間,安定した炭素固定を行うことで高い生産性を維持し,炭素獲得に見合った繁殖活動により高い種子生産能力を維持している.