| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) G1-08
植物の中には、昆虫などの食害を受けると適応度の低下を防ぐために様々な反応を示すものがある。その例として、その後の食害を軽減させる誘導防衛反応や、植物側の生長や繁殖を変化させる補償反応などがあり、その反応は、食害を受ける時期により質的・量的に異なることが知られている。
Sagebrushは北米の乾燥地帯に生育する低木種で、葉が傷つくと被害部位から強い匂い(揮発性物質)を放出し、被害個体は自らが放出する匂いを受容することで防衛反応を誘導する。この匂いは、近隣に生育する無傷の他個体の防衛反応も誘導し、この現象は「植物間コミュニケーション」と呼ばれる。また、先行研究では5月の展葉期に匂いを暴露した場合に最も食害が減少することが示されている。本研究では、食害および匂いの放出・受容時期の違いがその後のsagebrushの生長および種子生産とどのような関係にあるのかを明らかにすることを目的とした。そこで、カリフォルニア州の野外集団において、隣接して生育する2個体を選び、そのうち片方の個体に5月(展葉期)または7月(花序形成期)に個体あたり25%の葉を切除する摘葉処理を行い、9月の結実期に摘葉個体および無傷の隣接個体(匂い暴露個体)の個体サイズの増加量と花柄乾燥重量を測定した。その結果、摘葉個体では5月の摘葉処理により花柄生産量が減少した。従って、展葉期の食害は個体の適応度を低下させる可能性が高く、この時期に防衛反応を強く誘導することが重要であると考えられた。一方、匂い暴露個体では7月の摘葉処理により個体サイズおよび花柄生産量が増加した。このようにsagebrushでは、食害を受ける時期により異なる反応を示し適応度の低下を防ぐことが示唆された。