| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) G2-06
瀬戸内海は、陸域に囲まれ閉鎖性が高く、灘や瀬戸・湾といった環境異質性の高い半独立したいくつかの海域から成り立ち、各海域で環境特性に応じた多様な食物網構造が形成されていると考えられる。瀬戸内海では、海域間で一次生産が食物連鎖を経て高次消費者の魚類にいたるまでの有機物の転送効率に大きな違いがあることが過去の研究で明らかになっている。しかし、高次消費者への生産物の転送効率の違いがどのように生じているのかはわかっていない。生産者の作り出した有機物は、食物連鎖の中で栄養段階が上がるごとに呼吸・代謝過程などで損失していく。そのため、食物連鎖の段階数における違いは生産有機物の転送効率に深く関係する。海洋生態系では、生産者からカイアシ類等魚類の重要な餌生物の大型動物プランクトンに至るまでの食物連鎖の段階数が、生産者の群集組成に依存して微生物食物連鎖の寄与などにより大きく変動する可能性がある。そこで、本研究では瀬戸内海全域の各海域における生産者およびカイアシ類の炭素・窒素安定同位体比の地理的パターンを明らかにしたうえで安定同位体比を用いた食物網構造解析を行い、瀬戸内海海域間でカイアシ類の栄養段階に地理的な変異があるか検討する。また、海域間でのカイアシ類の栄養段階の違いを生み出す原因について、色素バイオマーカーを指標に推定した植物プランクトン群集組成などから考察を試みる。