| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G2-07

熱帯山地林河川の食物網構造と栄養起源の空間異質性

*宇野裕美(京大生態研),竹門康弘(京大防災研),北山兼弘(京大・農・森林生態),奥田昇(京大生態研)

上流域の河川生態系では、渓畔林起源の他生性有機物が餌資源として重要であるのが一般的であるが、熱帯低地林の河川上流域では他生性資源に由来する食物網が貧弱となることが報告されている。本研究は、熱帯山地林河川の上流域に形成される食物網の栄養起源を定量評価するとともに、自生性・他生性資源への依存度を左右する河川環境条件を検討することを目的として河床地形と光環境に着目して野外調査をおこなった。

調査はマレーシア・サバ州のキナバル国立公園内の原生林を流れるLiwagu川の標高1600m付近の3次河川において、2009年3月と10月に実施した。約300mの区間から光条件や河床地形の異なる12地点を選び、各地点で底生動物とその潜在的餌資源を採集し、群集構造解析と炭素・窒素安定同位体比分析による餌資源推定を行った。

解析の結果、群集全体としての他生性資源への依存度は60%程度と見積もられ、熱帯でも山地渓流においては他生性資源に依存する度合いが高いことが示された。また、瀬よりも淵の局所群集で他生性資源への依存率が高く、他生性資源と自生性資源の利用割合を決める要因として瀬と淵の重要性が認められたが、光環境については地点間の差が小さかったため両資源への依存度のへの影響は認められなかった。

他生性資源への依存率が高かった理由として、河川水中の微細粒状有機物(FPOM)に含まれる陸上植物由来物質の割合が高かったために、FPOMを利用する濾過食者や採集食者の他生性資源への依存率が高くなったことが挙げられる。これらのFPOMの生成と瀬淵構造の意義などについても言及したい。


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