| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) H1-07
アリと共生するアブラムシは,捕食者からの保護やコロニー内の衛生保持等の利益をアリから得ている反面,体サイズや胚子数の減少などのコストも負っている。また,共生アリが物理的・生化学的な方法でアブラムシの移動や分散を制限している研究例も蓄積されつつある。
本研究は,アリと共生することにより,アブラムシの移動・分散が制限され,交配集団が局所的となった結果,同系交配が増加するという仮説をmicrosatellite DNAマーカーと野外トラップ実験により検証した。
Tuberculatus属アブラムシは,同属内にアリと共生する種としない種を含み,それらの成虫は季節・密度・アリ共生に関係なくすべて有翅虫となる。北海道では,カシワの葉にコロニーを形成するアリ共生型アブラムシT. quercicolaと非共生型のT. japonicus及びT. paikiが同所的に観察される。北海道内の3地域11本のカシワから上記3種を8-32匹ずつ採集し,5つのmicrosatellite DNAマーカーで対立遺伝子数と遺伝子型を調べた。その結果,アリ共生型T. quercicolaの平均対立遺伝子数・平均ヘテロ接合度は,非共生型2種のそれらに比べて有意に低かった。またAMOVAは,アリ共生型T. quercicolaの地域間と地域内の遺伝的分化度が,非共生型2種のそれらに比べて大きいことを示した。さらにトラップ実験の結果,捕獲数/母集団は,T. quercicola (8/1342), T. japonicus (52/200), T. paiki(137/1315)であった。これらの結果から,アリ共生型アブラムシは,翅を有するにも関わらず,実際にはほとんど飛翔せず,狭い地域内においても木単位の分集団が孤立していることが示唆された。同様の結果は,ミズナラに分布するアリ共生型アブラムシT. sp. Aにおいても確認された。