| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-10

新世界ザル野生集団に対する行動観察と遺伝子調査による色覚多型の適応的意義の考察

*河村正二, 樋渡智秀, 平松千尋(東京大・新領域), 印南秀樹(総研大・先導科学), Melin, A.D., Fedigan, L.M. (Univ. Calgary), Schaffner, C.M. (Chester Univ.), Aureli F. (Liverpool J.M. Univ.)

霊長類の中で新世界ザルはL-Mオプシンの対立遺伝子多型により3色型と2色型からなる色覚の高度な種内多型を示す。霊長類の3色型色覚の適応的意義に関しては果実採食への有利性などが議論されてきたが野生集団を対象に採食効率への色覚の効果やオプシン遺伝子塩基配列多様性への自然選択の効果については明らかでなかった。新世界ザルは色覚多型性ゆえに色覚の適応的意義を研究する上で絶好の対象である。

我々はコスタリカに生息するクモザル(Ateles geoffroyi)とオマキザル(Cebus capucinus)の野生群を対象に採食行動の観察を行ないL-Mオプシン遺伝子の塩基配列多型性を調査した。クモザルでは果実検出の頻度、正確性、単位時間摂食量のいずれにおいても3色型と2色型に有意差はなかった。これらの採食効率指標は果実と背景葉との明るさのコントラストに有意に相関していた。オマキザルでは隠蔽色昆虫の採食において2色型は3色型より採食効率が有意に高かった。これらの結果は3色型色覚の優越性を支持していない。

L-Mオプシンの塩基配列多型性は両種とも中立対照領域のそれより有意に大きかった。またTajima's D値はL-Mオプシン遺伝子では期待分布域から正の方向に有意に逸脱した。これらの結果はL-Mオプシン遺伝子の多型性が自然選択(平衡選択)によって積極的に維持されていることを強く支持している。行動観察と遺伝子多型性の結果を総合すると自然選択は3色型色覚を維持するのではなく多様な色覚型を維持することに働いている可能性が考えられる。


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