| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) H2-04
新興感染症は時として野生生物の個体数の減少や地域個体群の絶滅を引き起こす。しかし、病原生物が宿主間を伝播し、個体群中に拡散するメカニズムについての知見は乏しい。1990年代に初確認されたコイヘルペスウイルス(CyHV-3)は、2004年、琵琶湖のコイ(Cyprinus carpio)の大量死を引き起こした。2006年における琵琶湖コイ個体群は、成熟個体が未成熟個体に比べ著しく高いCyHV-3への感染率を示した。このことは、他個体との接触頻度が増大する集団繁殖活動を介し、ウイルスが宿主間を伝播する可能性を示唆した。そこで本研究では、宿主繁殖活動とウイルス伝播経路との関わりを明らかにするため、繁殖期前後を通じ、繁殖場所のCyHV-3動態と宿主体内のCyHV-3動態を追跡した。繁殖場所のCyHV-3濃度は繁殖期に大きなピークを迎え、繁殖期前後には減少した。非繁殖場所においては、CyHV-3濃度は繁殖期に小さなピークを示したのみであった。また、宿主中のCyHV-3量は、成熟個体において繁殖期に増大した。これらの結果より、繁殖場所に集まった宿主より放出されるウイルスが蓄積することによって、繁殖期には繁殖場所がウイルス伝播のホットスポットへと発達することが示唆された。