| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-04

戻し交配しても遺伝子が浸透しない:アイナメ属3種で発見された半クローン生殖

*木村幹子(北大・FSC),河田雅圭(東北大・院・生命化学),阿部周一(北大・院・水産),荒井克俊(北大・院・水産),宗原弘幸(北大・FSC)

遺伝的に異なる集団が交雑を起こしている場所は、交雑帯と定義される。雑種の適応度が充分に低い場合、交雑が生じても親種間の遺伝的な差異は維持されるが、雑種が生存・繁殖可能である場合、親種との戻し交配により中立な遺伝子の浸透が起きる。また適応度低下の度合いによっては、交雑帯が維持されず、集団の遺伝的な差異も失われることが予測される。従って、遺伝子浸透を妨げ、交雑帯を維持させている要因を明らかにすることは、種間の分化の維持機構を解明する上で重要である。

北海道南部には亜寒帯性種のスジアイナメと温帯性種のクジメやアイナメの分布が二次的に接して形成された交雑帯があり、交雑帯ではスジアイナメを母親、クジメやアイナメを父親とする一方向性の交雑が生じている。雑種は全てメスとなるが、繁殖力を有し、父方の親種と頻繁に戻し交配しているにも関わらず、交雑帯ではF1雑種しか出現せず、3種間の遺伝子浸透は全く生じていなかった。人為的に戻し交配をさせて得られた仔魚の遺伝子型、核型および倍数性を調べた結果、父方の親種と戻し交配させた個体は母親と同じF1雑種型の2倍体ヘテロ接合体となったが、母方の親種と戻し交配させた個体は、母方種であるスジアイナメと同様のゲノム組成を示した。このことから、雑種が卵形成の際に父方ゲノムを排除し母方ゲノムのみを含む半数体の卵を生産すること、そして半数体精子と受精して再び2倍体の仔魚が生まれることが明らかになった。母方ゲノムはクローンとして次世代に伝わるが父方ゲノムは世代ごとに入れ替わることから、この生殖様式は半クローン生殖または雑種生殖(Hybridogenesis)と呼ばれている。アイナメ属では、半クローン生殖によって3種間の遺伝子浸透が妨げられ、交雑帯が維持されていると考えられる。


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