| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) I2-11
テナガツノヤドカリは日本では砂質干潟の潮間帯から潮下帯にかけて普通に見られる。これまで九州の天草諸島ではよく研究されてきたが、それ以外の地域では殆ど研究が行われていない。私たちは和歌川河口干潟の砂質干潟において、本種の繁殖生態をオスのハサミサイズの季節変化に着目して調査した。抱卵メスは調査した全ての月(4〜10月)で見られたが、抱卵率のピークは6〜7月で90%を超えていた。成体メスの甲長は3.5 mm 〜 8.5 mmの範囲であったが、大部分の成体メスの甲長は5 mm 〜 6 mmであった。オスの甲長は3.5 mm 〜 10 mmの範囲でメスよりも一様に分布していた。稚ガニの定着は主に7月に起こり、同じ月に雌雄の大型個体が急に減少した(メスでは甲長6.5 mm以上、オスでは8.5 mm以上の個体)。交尾前ガードについては、ガードされるメスの甲長が4.8 mm 〜 8.0 mmの範囲で変異が大きかったのに対し、ガードしたオスは甲長7 mm以上の比較的大きな個体のみであり、また各ガードペアでは常にオスの方が大きかった。大きい方の鉗脚の相対サイズが、繁殖期の初期からピーク(4〜6月)においては、小型オス(甲長7 mm未満)と大型オス(7 mm以上)との間で統計上有意な違いがあった。この期間には、大型オスは小型オスよりも相対的により大きなハサミを持っていた。しかし、この差は繁殖期の後半(7〜9月)には不明瞭になった。大型オスはメスを巡る競争で有利になるように繁殖期の初期から鉗脚をより長く成長させている可能性がある。また、なぜ7月に大型の雌雄が急に減少するのかについては、2つの可能性を考えており、現在調査中である。