| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) K2-08
付着藻類は、河川生態系の一次生産者であり、消費者の主要な炭素源である。一方で、流域から流入する陸上植物由来炭素も重要な炭素源となっている。河川生態系における河川・陸上由来炭素動態は、長年議論が積み重ねられてきているが、近年では炭素安定同位体比解析を用いた評価手法が導入され、その理解は大きく進んだ。しかしながら、付着藻類の炭素安定同位体比(δ13C)は、空間変異が大きく、しばしば安定同位体比による食物網解析の整合性がとれなくなる原因となっている。我々は、付着藻類のδ13C変動が何に起因するのかを明らかにするため、付着藻類の炭素同位体分別に着目し、物理環境との関連性を調べた。愛知県東部に位置する豊川を対象にし、上流から下流の7地点の瀬から年4回、付着藻類を採集した。同時に、河川水を採水し、無機態炭素と付着藻類のδ13Cを測定した。付着藻類のδ13Cは、-11‰から-24‰の間で変動し、中流部が最も高く、上流よりも下流の方が低い値を示した。これらの値は、淵の割合が増えるほど低下していた。無機態炭素濃度は、下流ほど上昇しており、淵の割合と正の相関があった。加えて、無機態炭素濃度は、硝酸態窒素濃度と高い正の相関があり、流域からの栄養塩負荷が関連している可能性がある。また、無機態炭素のδ13Cは、下流ほど低下していた。さらに、付着藻類の炭素同位体分別は、無機態炭素濃度と有意な正の相関が見出された。下流における付着藻類のδ13Cの低下は、炭素源である無機態炭素のδ13Cの低下と、無機態炭素濃度の上昇による炭素固定の際の同位体分別が大きくなることによって生じていた。これらの結果は、上下流方向の瀬淵割合変化と流域からの栄養塩負荷が付着藻類のδ13Cを決定する重要な要因となっていることを示唆するものであった。