| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) K2-10
熱帯泥炭湿地林の開発による地下水位の変化は、泥炭地に生育する樹木の生理や生態に大きな影響を与えている可能性が高い。特に、土壌の分解系に直接影響を与える樹木の葉の性質が変化すれば、炭素排出源としての効果がさらに促進される可能性もある。この研究では、熱帯泥炭湿地林の開発による地下水位の変化が、樹木の葉の形態や性質に与える影響を明らかにすることを目的として、地下水位の異なる泥炭林における樹木の葉の硬さや防御物質、窒素量の違いを調べた。
調査は、インドネシア・中央カリマンタン州・パランカラヤ市近郊に広がる熱帯泥炭湿地に存在する1)排水工事が実施されず原生的な状態の泥炭林、および2)1990年代の農地開発を目的とした排水路の建設により地下水位が低下し乾燥化した泥炭林で行った。両方の調査地に共通に出現し、同様の光環境下に生育する樹高1-5mの木本種14種計227個体を調査対象とし、全ての個体の樹冠上部の葉について、葉厚、葉硬度、全窒素・全炭素濃度、総フェノール・縮合タンニン濃度、炭素安定同位体比(δ13C)を測定した。
その結果、地下水位が低下した泥炭林に生育する個体は、原生的な状態の泥炭林に生育する個体に比べ、葉厚と縮合タンニン濃度、炭素同位体比(δ13C)が有意に高い傾向を示した。その他の項目については、両者で明瞭な差は見られなかった。つまり、水位調節により、熱帯泥炭湿地林の樹木は、葉の硬さや窒素濃度など、分解や光合成に直接関わる性質の変化は認められないものの、乾燥ストレスに対応するために含水量の多い厚い葉を持ち、気孔を閉じ気味にして水利用効率を高めていることが考えられた。