| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-102
大気CO2濃度増加とそれに伴う温暖化が問題となっている。温暖化の影響のひとつに降水量の変化が指摘されている。その例としてヨーロッパで2003年夏季に生じた猛暑と乾燥害が挙げられる。高CO2濃度環境下では、気孔コンダクタンスの低下現象が確認されている。低い気孔コンダクタンスによって蒸散量も減少するため、葉の水分状態が改善され、高CO2濃度下では、より湿潤な条件に適した葉が形成されると考えられる。このため高CO2濃度下では現在のCO2濃度下に比べて、乾燥ストレスの影響をより受けやすくなる可能性がある。そこで、高CO2濃度と夏季の土壌乾燥の組み合わせが冷温帯落葉樹の個葉光合成特性に与える影響を明らかにすることを目的に実験を行った。5月中旬からCO2濃度370ppm(対照)と720ppm(高CO2)の条件でシラカンバを生育させ、7月下旬から4週間灌水頻度を変えることで乾燥処理とした。高CO2濃度処理によって生育CO2濃度における光合成速度の低下(光合成の負の制御)現象が見られた。また高CO2濃度処理で対照に比べて光合成系タンパク活性(Vcmax, Jmax)の低下が見られた。これらの結果から光合成の負の制御を生じた要因として、葉の窒素濃度の低下と光合成系タンパク活性の低下が推察された。乾燥処理による葉の黄葉化や落葉は見られなかった。高CO2濃度の乾燥処理で光合成特性が対照の乾燥処理と比べて明瞭に低下する傾向は見られなかった。これらの結果はシラカンバが遷移初期種で裸地などに侵入・更新するため、乾燥ストレスに対する耐性が強いという性質によるものと考えられる。