| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-109
近年,葉の通水性が個葉のガス交換特性を左右する重要な生理生態学的特性として注目されるようになってきている。生育する光環境によって葉の構造が変化することはよく知られる現象で,日当たりのよい場所に生育する葉(陽葉)は日当たりの悪い場所に生育する葉(陰葉)に比べて,葉が厚い,柵状組織の層数が多い,葉脈が密などの特性を持つ。そこで本研究では,こうした光環境による葉構造の変化が葉の通水特性に与える影響を明らかにすることを目的とした。
研究には森林総合研究所内に生育するコナラ2個体(胸高直径が41cmと23cm)を用いた。陽葉と陰葉それぞれ10枚について,減圧チャンバー法で葉の通水性の指標となる葉の通水コンダクタンスを測定し,試料葉の葉脈アーキテクチャ,道管数や道管内腔直径,木部外経路長などを測定した。また,陽葉と陰葉それぞれの通水性の光感受性を測定し,試料葉の維管束鞘延長部の発達度合いとの関連を調べた。
葉の通水コンダクタンスは陽葉の方が陰葉よりも高かった。葉脈密度は,主脈系,細脈系ともに陽葉の方が高かった。葉面積当たりの道管数は陽葉のほうが陰葉よりも高かったが,道管内腔直径は陽葉と陰葉で有意差は認められなかった。道管内腔直径と道管数から計算した葉身基部における主脈の通水コンダクタンスの理論値は,陽葉と陰葉で有意差は認められなかった。維管束長延長部は陽葉のほうが陰葉よりも発達しており,強光を照射したときの葉の通水コンダクタンスの増加量は陽葉の方が陰葉よりも1.5倍ほど高かった。発表では,これらの結果に木部外経路長のデータを加え,葉の通水性と様々な葉構造の変化との関係性について考察したい。