| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-118
一般に、植物の葉の窒素濃度は、展葉開始時には高く、その後展葉に伴って低下することが知られている。この現象は、展葉開始時に葉に含まれていた窒素が展葉に伴って希釈されることにより生じるとされる。一方で、展葉が起こる春季には温度の上昇に伴って土壌中の窒素の可給性が上昇することが知られており、この時期の葉の窒素獲得は植物にとって重要であると考えられる。展葉期の植物の窒素獲得について明らかにするためには、窒素の濃度の変化だけでなく、個葉ひいては個体が保持する窒素含有量の変化を把握する必要がある。本研究では、既に展葉期の窒素濃度等の変化が調査されている木本植物三種(イロハモミジ・ケヤキ・アラカシ)を対象として、展葉期の葉面積の変化と葉重の変化との関係を調査し、先行研究との比較によって個葉あたりの窒素含有量の変化を推定した。
三種ともに葉重は葉面積よりも遅れて変化し、その遅れ方は、落葉樹であるイロハモミジ・ケヤキと、常緑樹であるアラカシで大きく異なった。葉面積が最大となった時の葉重はイロハモミジとケヤキでは最大値の80%を超えていたのに対し、アラカシでは60%程度で、葉面積が最大になった後も葉重は増加した。
先行研究により、葉の窒素濃度は三種全てで葉面積の拡大に伴って低下し、葉面積が最大となった時点でほぼ定常となることが示されている。この展葉に伴う窒素濃度の変化を本研究で得た葉重の変化と比較し、個葉あたりの窒素含有量の変化を推定した。その結果、落葉樹二種では個葉あたりの窒素含有量はほぼ葉面積の変化に併行した変化を示した。それに対して、常緑樹のアラカシでは個葉あたりの窒素含有量は、窒素濃度の低下の影響を受けながらも増加していく段階と、窒素濃度が定常に達した後に葉重の上昇に伴って単調に増加する段階を経た後、定常に達することが示された。