| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-124
マングローブとは、熱帯・亜熱帯の沿岸や河口域の潮間帯に生育する森林を構成する植物の総称である。マングローブは海水が流入する汽水域に分布することから、塩ストレス耐性とそれに伴う浸透ストレス耐性に関する研究が非常に多く行われてきた。しかし、マングローブ樹木の更新の要である実生の湛水ストレス耐性に関しては、その特殊な形状をした根系による形態的な適応として概ね解釈されているせいか、生理学的分子生物学的手法による研究例は少ない。マングローブが生育する土壌は湛水ストレスによる還元状態にあり、土壌から根系への酸素供給が困難な環境、すなわち根系のエネルギー獲得が困難な環境である。実生段階のマングローブ樹木は、形態的な適応が不十分なため、生理的な適応範囲を超える過度の湛水ストレス環境下では枯死に至ると考えられる。換言すると、実生段階での湛水ストレス耐性の差は、個々の実生の定着可能な環境を限定する要因であるだけでなく、種毎の生態的地位を決定づける重要な要因と考えられる。本研究では湛水ストレスに対するマングローブの形態的適応の特徴である気根形成以前の実生段階において、樹種ごとにどのような生理的適応機構で湛水ストレスに耐えているのかを明らかにすると同時に、その生理的適応能力の差とマングローブ生態系内での生態的地位決定との関係を明らかにすることを目的とする。具体的には沖縄県西表島のマングローブ林内において、インターバル定点撮影を行い、実生が潮汐により湛水する状況を画像データとして取得し、定量解析により水環境の変化と樹種毎の湛水ストレスの度合いを明らかにした。また、アルコール発酵、乳酸発酵、エチレン合成に関係する遺伝子群をクローニングし、異なる水環境条件における発現の違いを調べた。