| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-129

ブナ高木の樹冠内窒素分配:葉の窒素含量は光環境に合わせて最適分配されているのか?

*長田典之(京大・フィールド研),安村有子(シュプリンガージャパン),彦坂幸毅(東北大・生命),石田厚(森林総研)

植物にとって窒素は光合成タンパク質の材料として重要であり、葉の窒素含量は光合成能力と高い相関がある。このため、光環境の良い葉ほど窒素含量が多くすることが生産性を高めるうえで重要であり、実際に草本群落においてそのように窒素が分配されていることが示されてきた。さらに、高木においても大まかには高い位置の葉(=光条件の良い葉)ほど窒素含量が多いことも報告されている。

樹木は成長とともに分枝を繰り返し、複雑な構造(アーキテクチャ)を作る。このため、同じ高さにある葉でも光環境は不均一である。上記の考えにしたがうと、個体の生産性を高めるうえでは個々の葉の光環境に応じて窒素含量を調節する必要がある。しかし、実際に高木において光環境に合わせて個葉レベルで窒素含量が調節されているのかは不明である。

本研究では、福島県いわき市勿来に建てられた林冠観測タワーを用い、ブナ高木3個体を対象として、個葉の光環境と窒素含量の関係を2年間にわたって調べた。この結果、樹冠内の高さに応じて葉の平均的な光環境(L)、葉重/葉面積比(LMA)、面積あたり窒素含量(Narea)は増加し、LとLMAの間およびLとNareaの間には高い相関があった。しかし、同じ枝系内の葉(=同じ高さ)どうしで比較すると、これらの値にはばらつきが大きく、LとLMAの間およびLとNareaの間の相関は弱かった。このことは、対象個体が枝系内において光環境に合わせて個葉レベルで窒素含量を調節しきれていないことを意味する。これらの結果をもとに、樹木個体がどのように樹冠内において個葉の窒素含量を調節しているのかについて考察する。


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