| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-136
当年枝は葉身と茎・葉柄からなる樹木の基本成長単位であり、樹冠頂部の当年枝の形態や生産性は樹高成長を規定する。幹や枝は樹高成長にともなって肥大成長するため、純生産量の維持が欠かせない。まず発表者らは、落葉広葉樹の頂部当年枝での重量分配パタンや葉・茎の形態が樹高依存的に変化し、高さ成長に寄与することを明らかにした。異なる生理的乾燥下の頂部葉の機能や樹冠での水利用効率を評価するには、光合成速度と炭素安定同位体比を個体サイズに沿って定量化する必要がある。通導距離が長い高木では樹冠への水輸送が困難になるという仮説に基づき、光合成特性の変化が報告されている。しかし、同所性多種を扱った研究は少なく、共通した結果は得られていない。また、葉の形態を考慮した解析例はなく、当年枝での物質分配と生産過程をつなぐパラメータを抽出できていない。
そこで、光制約のない状態での樹冠での水利用効率と個葉の光合成速度の樹高依存性を抽出するために、以下の調査・解析を行った。2008年7〜8月に北海道大学苫小牧研究林において、樹冠が被陰されていない明所に生育する落葉広葉樹7種(1〜23 m)を対象に、頂部葉の炭素安定同位体比、単位葉面積あたりの窒素含量、最大光合成速度および葉重量(LMA)を測定した。水利用効率と光合成速度の樹高依存性の一般性を評価するため、種間共通部分と種差を考慮する階層ベイズモデルを開発した。樹高依存的なLMAの増大は、蒸散量の増大を抑える可塑的応答で、また窒素含量の増大を介して最大光合成速度を高めた。樹高成長にともなって炭素安定同位体比は増大し、樹冠の高い水利用効率下でLMAの大きい葉が形成されることを示唆した。これらの結果は多種で共通しており、成長にともなう葉の形態的可塑性は樹冠の水分環境に適応的な応答であると言える。