| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-156
植物は環境に適した葉の形態を持つことで、効率的な光合成や蒸散を実現している。近年、熱帯雨林の林冠部では、維管束鞘延長部が発達した異圧葉樹種と延長部の無い等圧葉樹種が混在することが明らかになった (Kenzo et al. 2007)。異圧葉樹種は、延長部によって細胞間隙が細分され、水ストレス時に気孔の開閉を区画単位で調整することができる。等圧葉樹種は、異圧葉樹種よりも葉内における効率良いガス移動が可能であるが、細かな気孔の調整はできない。熱帯特有の強烈な日射や高温により、日中強い水ストレスを受ける熱帯雨林の林冠部において、異圧葉・等圧葉樹種はそれぞれどのような水利用を行っているのか?この研究では、熱帯雨林の林冠部における異圧葉・等圧葉樹種の光合成や蒸散、水ポテンシャル、木部構造を調べ、林冠構成種の葉の形態と水利用との関係を明らかにすることを目的とした。調査は、マレーシア・ランビル国立公園の低地混交フタバガキ林で行った。調査対象樹種には、調査地の林冠構成種20種(異圧葉樹種13種、等圧葉樹種7種)を用いた。木部構造の調査は、成長錐を用いて木部コアを採取し、比重、道管直径を計測した。また、林冠観測用クレーンシステムを用い、各樹種の最大光合成・蒸散速度、及び夜明け前と日中の水ポテンシャルを測定した。その結果、異圧葉樹種は等圧葉樹種と比べて有意に大径の道管を持っていた。最大光合成・蒸散速度、夜明け前に対する日中の水ポテンシャルの変動幅についても、異圧葉樹種が等圧葉樹種よりも有意に大きな値を示した。また、水ポテンシャルの変動幅と道管直径の間には、有意な正の相関関係が見られた。つまり、林冠構成種は、異圧葉と等圧葉それぞれの形態的・機能的特性に応じた道管を備え、水利用を調整し、熱帯雨林林冠のストレス環境に適応していた。