| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-161

更新初期段階におけるブナ属2種の春期未展葉型死亡に関する成長形質

*石塚航,後藤晋,梶幹男(東大・演習林)

ブナ属樹木は普通年に一回展葉する極相種で、翌年のシュート原基を落葉期までに冬芽内に形成する。冬芽サイズは翌年のシュート長や成長を規定することが知られるが、個体サイズの小さな実生の場合、冬芽の大きさは成長だけではなく生死にも影響を与えると予想される。実際に、秩父山地の太平洋側冷温帯林に同所的に優占するブナ属2種 (ブナ、イヌブナ) 実生の継続的な追跡調査より、冬芽を形成するものの、翌春、未展葉のまま死亡する個体が確認された。そこで、本研究では、この春期未展葉型死亡の定量的評価を行うとともに、形成される冬芽の長さが生死を規定するか、また、冬芽は前年、および翌年のどのような成長形質に相関をもっているのか、を検討した。

東京大学秩父演習林内に設置した調査地において、2005年発生イヌブナコホート、2006年発生ブナコホートを2009年までセンサスし、生活史初期段階の生死および成長形質を調査した。冬芽長と生死の関係性の解析にはロジスティック回帰モデルを用い、樹種および実生齢を考慮したモデルを構築して解析した。また、冬芽を形成したイヌブナ実生を用い、サイズ別に冬芽の組織切片を作成して、冬芽内組織の観察を行った。

春期未展葉によって死亡する個体は年齢の増加によって減少したが、1年生実生では両種ともに30%を超える高い死亡率を示し、個体群動態にとって無視できないものだった。形成された冬芽の長さは年齢によってばらついたが、回帰モデルにより有意に小さい冬芽ほど死亡率が高いことが示され、冬芽長の年齢によるばらつきは春期未展葉型死亡率のばらつきを規定することがわかった。冬芽長の大きな個体は前年の葉面積や伸長率などが大きい傾向があり、翌年の成長形質とも高く相関していた。逆に冬芽長2mm以下の個体のシュート原基は不完全なことが組織観察よりわかり、冬芽長が生育制限の指標となることが示唆された。


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