| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-169

個体密度の変化に対するテツカエデ稚樹の応答 -形態的可塑性と生理的可塑性-

*齊藤わか,吉田幸弘(京大・農),河村耕史(名大・農),北山兼弘(京大・農),武田博清(同志社大・理工)

森林では種子散布やギャップ形成などの要因によって同種の稚樹が林床に密生する場合があるが、これらの稚樹は光や養分をめぐる競争関係にあると考えられる。しかし稚樹の個体群では、林冠からの落枝、食害、病害等で稚樹が枯死し、局所的な生育密度が頻繁に変動するため、その競争関係は一定ではないと考えられる。隣接した稚樹が枯死することによって競争が緩和された場合、光資源や空間資源を利用するために個々の稚樹がどのように反応するかを調査することは、森林の更新過程を考える上で重要である。そこで本研究では刈取りによって林床に密生する稚樹の生育密度を調整し、翌年の稚樹の成長量、生理特性、形態特性を調査した。

京都大学芦生研究林では、テツカエデ(カエデ科)の稚樹が林床で優占している林分が多く見られる。本研究ではこのテツカエデ稚樹を材料として用いた。生育密度と光環境に偏りがないよう選定した稚樹の1m四方に成育する隣接個体を刈取り、翌年の成長量、形態変化、葉の生理特性を調査した。初年度の稚樹のバイオマス量はアロメトリー式を用いて推定し、刈取り後の成長量と成長速度を求めた。形態の指標としてLAI (総葉面積/樹冠面積)、支持器官重量あたりの葉面積を各個体に関して算出した。葉の生理特性として、光合成速度、SLA(葉面積/葉重量)、葉窒素量を測定した。

周辺個体を刈り取った個体は、対照個体と比較して主幹重量の成長速度が有意に高かった。LAIと支持器官重量あたりの葉面積は有意な差が見られなかった。葉の光合成速度は刈り取った個体で高く、SLAも刈取り個体で低いという結果が得られた。隣接個体の生育密度を調整した場合、稚樹は樹形ではなく葉の生理特性を変えることで、高い成長速度を実現していることが示唆された。


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