| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-173

安定同位体比を用いた海浜植物の水利用特性と耐塩性の評価

*原菜那(三重大・生物資源), 松尾奈緒子(三重大・生物資源),小山里奈(京大・情報),徳地直子(京大・フィールドセンター),山中典和(鳥取大・乾燥地研)

海岸砂丘には土壌水分量や塩分量に空間的変動があるため,植生は環境条件の違いに対応した植物の水利用様式や耐塩性によって決定されると考えられる.そこで本研究では,植物の特性と生育場所の水分条件や塩分条件との関係を明らかにし,鳥取砂丘に生育する植物の分布の決定要因を考察した.鳥取砂丘において汀線から砂丘上部の間に3つの調査区(下・中・上)を設定し,そこに生育する数種類の植物の吸水源を茎内水と土壌水,海水,地下水の酸素安定同位体比(δ18O)を照合することにより推定した.また,植物の蒸散特性と水利用効率を葉のd18Oおよび炭素安定同位体比(δ13C)を用いて評価し,区内にイオン交換樹脂バッグを埋設し土壌中の塩分移動量を測定した.

その結果,下区は中・上区と比較してNa+濃度が高く,海塩の影響を大きく受けていた.また,土壌含水率は上区で低く,下区では高かった.下区に生育するハマヒルガオとハマニガナは上区に生育するハマゴウ,カワラヨモギよりも浅い層に吸水源を持ち,水利用効率も高いことがわかった.このことから土壌水分が少ない上区に生育する植物はより深い層の土壌水を吸水源としており,塩分濃度が高い下区に生育する植物は水利用効率を高めることで対応していることが示唆された.また,下区に生育する種間で比較すると,ハマニガナの方がより浅い層の土壌水を利用し,蒸散量が大きかったが,水利用効率は両種とも同程度であった.したがって,同じ塩分環境においても種によって水利用様式が異なることがわかった.以上より,鳥取砂丘ではより深い土壌層に吸水源を持つ種が土壌水分の低い砂丘上部に分布し,高い水利用効率を持つ耐塩性の高い種が塩分濃度の高い汀線側に分布していると考えられた.


日本生態学会