| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-183

ブナの花芽形成決定への個体内資源量の関与

*宮崎祐子(北大・創成),Benesh Joseph,小林正樹,清水健太郎(チューリヒ大・理),佐竹暁子(北大・創成)

ブナをはじめ多くの樹木でみられる数年に一度の間欠的繁殖の要因には、主に気温等の気象要因や個体内資源量(糖類やデンプン等の非構造体炭水化物、および窒素等)等の内生要因が考えられてきた。個体内資源は花芽分化を引き起こすシグナルとして直接働くことが想定されているが、このことを確認するためには、花芽分化の直前あるいは分化中の個体内資源量と花芽分化の有無とを対比させることが必要である。一方、ブナのような落葉広葉樹では冬芽は前年夏から分化するが、シグナルを受容して花芽が分化すると考えられる時期には花芽の有無を形態観察からは識別できない。そこで本研究では、モデル植物シロイヌナズナで蓄積された知見を非モデル植物であるブナに応用し、シロイヌナズナの花成制御遺伝子の一つであるLEAFYの相同遺伝子の発現量をブナの花芽分化の指標として使用することを試み、個体内資源量が花芽分化に与える影響について評価した。

札幌市内に植栽されたブナを用いて、2009年4月から10月まで2週間おきに冬芽におけるLEAFY相同遺伝子の発現量をリアルタイムPCR法により測定した。その結果、発現量は春から夏にかけて上昇して7月に最大値を示し、その後秋にかけて減少する季節変化を示した。これは、形態的に花芽が識別可能になる8月以前に花芽分化が決定される可能性を示唆する。さらに、発現量測定に用いた冬芽に対応する枝内の非構造体炭水化物量および全窒素量を測定し、これらの個体内資源量とLEAFY相同遺伝子の発現量の相関を解析して枝内の個体内資源量が花芽分化に与える影響を調べた。本アプローチによって、内生要因だけでなく気象要因についてもその役割を評価し、最終的に花芽分化を引き起こすシグナルの相対的重要性について言及したい。


日本生態学会