| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-190
多年生植物において、前シーズンの繁殖がその後の繁殖や生存・成長に及ぼす負の影響は、繁殖コストとして一般に知られている。雌雄異株植物では、有性繁殖に対する資源投資量の違いに起因して、繁殖・生存に対する繁殖コストの程度に性差が生じると考えられる。そして繁殖コストの負の影響は、果実生産に資源投資する雌でより強く認められると予測される。そこで本研究では、複数の幹からなる株を形成する雌雄異株低木シロモジを対象に長期モニタリングデータからこれらの予測を検証することを目的とした。
長野県赤沢自然休養林内に設置された4haプロット内に生育するシロモジ株を対象に、2004年から2009年まで開花・結実状況を毎年追跡調査し、株内の全ての幹の生産花序数・果実数を目視により直接計数した。一部サンプルより花・果実乾重を測定し、花序・果実数とあわせて各幹の繁殖投資量(バイオマス)を推定した。また各幹の生死も毎年確認した。これら6年にわたる詳細なモニタリングデータをもとに、シロモジ幹の繁殖・生残を説明する階層ベイズモデルを構築し、前年の繁殖投資量がその後の繁殖・生存に及ぼす影響について雌雄で比較した。
その結果、開花の段階では雄は雌よりも繁殖投資量が大きく、果実も含めたトータルの繁殖投資量は雌の方が4−6倍程度大きかった。幹の生残確率については、繁殖幹・非繁殖幹のいずれにおいても雌雄で差は認められ無かった。またモデルによる解析より、予測とは逆に雄では幹の開花・生残に対する前年の繁殖投資量の有意な負の効果が検出されたものの、雌では花序・果実のいずれの繁殖投資量の影響も認められなかった。本大会では、なぜシロモジでは多くの既存研究と逆の傾向を示したのか、その要因を検討する。