| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-194
樹木における萌芽更新の特徴のひとつは、実生からの定着とは異なり、すでに発達した根系を利用できることにある。これは栄養塩類に乏しい環境において伐採や火入れなど人為撹乱から素早く植生を回復させる上で有利な特性であると考えられる。本研究では、人為撹乱からの植生回復能力のひとつとして樹木の萌芽能力に着目し、稚樹〜若木レベルの樹木を伐採後、萌芽頻度を観察した。また、伐採前後の幹や根における貯蔵炭水化物濃度の変化を調べた。調査対象は、東マレーシア、サバ州(ボルネオ島)の貧栄養土壌(ポドゾル)に分布する熱帯ヒース林(ケランガス林)において優占する3樹種(マキ科のDacrydium pectinatum、フタバガキ科のHopea pentanervia、フトモモ科のTristanopsis obovata)である。伐採から6−8カ月経過後の観察では、高い頻度で萌芽が観察されたのはHopea1種のみであった。Tristaniopsisではほとんど萌芽が観察されなかった。これらの傾向は2度目の試験でも同様であった。Dacrydiumについては試験を行った全ての個体について萌芽は観察されなかった。Hopeaの実生、稚樹の幹、根の貯蔵炭水化物濃度は他の2種に比べて有意に高いほか、伐採後の貯蔵炭水化物濃度が伐採前に比べて有意に減少したことから、貯蔵炭水化物が伐採後の萌芽更新に寄与していることが示唆された。しかしながら、旺盛な萌芽が観察されたのはHopeaのみであり、貧栄養環境に成立する熱帯ヒース林の主要構成樹種は必ずしも萌芽更新への依存度が高いわけではなかった。この結果は、一旦人為撹乱を受けた熱帯ヒース林を植生回復させることが困難であることを示唆している。