| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-200

クサギ属植物における広域分布種と伊豆諸島準固有種の繁殖様式

水澤玲子(京大・農),長谷川雅美(東邦大・理),井鷺裕司(京大・農)

送粉者の種構成および密度の変化は被子植物の繁殖様式を進化させる選択圧となる。海洋島の生物相は主に本土からの供給によって形成されるため、分類群の欠落や密度のアンバランスといった特徴を持ち、本土から移入した植物では送粉者の転換や不足が生じやすい。また移入初期には繁殖相手となる他個体の数が限られるため、自殖化への進化が促進されると予想されるなど、植物における繁殖様式の進化プロセスを解明する上で多くの知見を提供する重要な系である。しかし本土と海洋島の間で近縁種間の繁殖様式を比較した研究は少ない。

伊豆諸島は本土に近い海洋島で、広域分布種のクサギと伊豆諸島準固有種のシマクサギが自生する。シマクサギの雄蕊長はクサギと比べて著しく短く、開花時期もクサギより約2週間遅れることから、クサギとは異なる繁殖様式を持つことが予想された。クサギとシマクサギは一部の島で同所的に生育し、本土型と島嶼型の繁殖様式を比較する上で有用な系である。これまでの研究から、本土におけるクサギの主な送粉者は黒色系アゲハ類である一方、伊豆諸島における黒色系アゲハ類の訪花頻度は低く、代わってホウジャク類が主な訪花者となる事が明らかにされている。本研究では2種のクサギ属植物の結実状況に影響する要因を明らかにする目的で、クサギとシマクサギが同所的に生育する新島において、花粉の質(自家花粉と他家花粉)、黒色系アゲハ類の密度、および開花日と、結実率との関係を調査した。

その結果、クサギでは他家花粉に比べて自家花粉による結実率が有意に低下した(38.5 %と8.9 %)のに対して、シマクサギでは自家花粉と他家花粉の間で結実率に差が見られず(56.7%と50.0%)、伊豆諸島における自殖の進化が示唆された。また、両クサギ属植物の結実状況と黒色系アゲハ類の密度および開花時期との間には相関はみられなかった。


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