| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-204

近畿地方内陸部タブノキ林の保全生態学的研究:地理変異と繁殖特性

*渡部俊太郎(滋賀県立大・環境),金子有子(琵琶湖環境科学研究センター),前迫ゆり(大阪産大・人間環境),野間直彦(滋賀県立大・環境)

タブノキ(Machilus thunbergii)は東北地方から九州・沖縄の沿海地を中心に分布する常緑樹であり、近畿地方の一部では内陸にも生育している。しかし、タブノキ林はその分布域が人間の生活圏と重なることから孤立断片化がされてきた。こうした孤立断片化がタブ林にあたえる影響の一断面を明らかにするために、近畿および北陸の4か所のタブノキ林から得た稚樹と実生の遺伝的多様性、定着特性と、種子集団に見られる自殖率を比較し考察する。

京都府冠島(2006年)、滋賀県竹生島(2006年)、滋賀県犬上川(2006年および2009年)、石川県珠洲市菅原神社(2009年)の4つのタブノキ林で試料採集および調査を行った。サンプルについては各調査地で成木の葉を採集し、冠島、竹生島、犬上川では実生、稚樹を採集した。果実は今年度結実のみられた石川県珠洲市において、集団内および孤立木、という異なる立地にある母樹2個体から合計51サンプルを採集した。その上でタブノキの16遺伝子座を対象に開発されたSSRマーカーを用いて、それぞれの調査地の実生集団の遺伝的多様性と種子集団の自殖率について解析した。また犬上川では2009年に4m×20mのベルトトランセクトを設置し、実生および稚樹の調査を行った。

タブノキの種子について自殖率を求めた結果、集団内の母樹の種子集団では21%であったのに対して孤立木では46%であり、孤立に伴って自殖率が増加する傾向が見られた。トランセクト調査の結果、タブノキ林においては稚樹の個体数は林縁部と比較して、非常に少なく、林内には次世代の定着が困難であることが示唆された。自殖由来の種子の定着特性などは今後の課題である。今回はこれらの内容に実生集団の遺伝的多様性もあわせて考察する。


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