| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-214
日本海側多雪地の冷温帯には天然スギ林が点在するが、その初期更新過程についてこれまで十分に明らかにされてこなかった。本研究では発芽および定着段階での生残特性と林床の基質の関係を明らかにすることを目的とした。
佐渡島北部にある新潟大学演習林の天然スギ優占林分1.96haの長期観測サイトにおいて、2009年の当年生実生と多年生実生(子葉がなく、幹長15cm以内)の全数調査を7、8、10月に行い、またそれらが生育している基質を類型化した。調査区内に設置したシードトラップにより2005年から2009年まで種子量を調査した。
落下健全種子量は2005年に約1,200万粒/haと最も多く、2006から2008年は8万〜180万粒/haであった。2009年の林内における推定発芽率(出現実生密度/落下健全種子密度)は0.065%と低かった。当年生実生は林床における相対面積が大きいリター上において最も多く出現した。逆に多年生実生は林床における相対面積が低い倒枯死木、地際、幹の表面において他の基質よりも多く見られた。当年生実生の各基質における生残率はリター上で低く、それに比べ地際や倒枯死木は高かった。多年生実生のサイズクラス分布は各基質とも一山型を示し豊凶変動の影響が共通してみられたが、倒枯死木においてのみサイズの大きい個体が多かった。各基質の中で多年生実生は倒枯死木において最も枯死個体が少なかった。
以上の結果より種子の豊凶や散布から発芽までの高い死亡率が実生密度に強い影響を及ぼしていることが示唆された。発芽後のリター上での高い死亡率により、定着は生残率が高い地際、幹の表面、倒枯死木に制限される。それらの中で死亡率が低く成長量が高い倒枯死木が特に重要な定着基質であると考えられる。