| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-257

高度に酸化鉄を集積した積雪中のメタン酸化微生物

*吉井健太,小島久弥,福井学(北大・低温研)

メタンは二酸化炭素と同様、温室効果ガスとして知られ、分子あたりの温室効果は二酸化炭素の約23倍である。メタンは嫌気環境下において有機物分解の過程で生成され、好気環境下においてはメタン酸化細菌により消費される。結果、最終的な大気中へのメタンの放出量は生成量の50%以下に抑えられていると考えられている。メタン酸化細菌は地球規模のメタン動態に大きく寄与しており、また多様な環境に生息するため、湿原、湖沼、海洋、永久凍土といった環境において生態が盛んに研究されている。

演者らによる先行研究により、赤褐色に着色した積雪中にメタン酸化細菌が生息している例が発見された。尾瀬において確認されたこの彩雪現象は、積雪底部付近に発達し、色は酸化鉄に起因している。この研究により積雪内部がメタン酸化細菌の重要な生息場所になっている可能性が示された。メタン酸化活性は光、水溶性有機物、高濃度酸素により阻害されることが知られている。積雪内部ではこの全てから回避出来る可能性がある。また、土壌から放出されたメタンが積雪内部に捕捉され蓄積されることも知られている。これらの知見を総合すると、積雪内部はメタン酸化細菌にとって好ましい環境が成立していることが予想される。

本研究では、着色した積雪中のメタン酸化細菌の多様性と現存量を分子生物学的な手法を用いて解析した。試料は、2007年尾瀬ヶ原、2009年尾瀬沼において採取した。16S rRNA遺伝子、及びメタン酸化酵素をコードするpmoA遺伝子を対象とした解析の結果、湖底泥と積雪中ではメタン酸化細菌の群集が大きく異なることが示された。また、年・場所の違いに関わらず積雪中はMethylobacter属に近縁なものが優占しており、多様性に乏しいメタン酸化細菌群集が形成されていた。また、積雪表層よりも、着色した深部の方でメタン酸化細菌がより集積されていた。


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