| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-262
酸素が消費された嫌気的環境では生物遺骸などの高分子有機物は低分子有機物に分解され、さらに二酸化炭素へと無機化される。海洋堆積物においては、海水中に多く存在する硫酸イオンが利用可能であるため、この段階的な分解過程の最終段階は主に硫酸還元菌が担う。海洋における有機物分解の大半は沿岸域において行なわれており、そのうち約50%が硫酸還元菌の寄与であると考えられている。よって、沿岸域に生息する硫酸還元菌を理解することは海洋堆積物中の炭素循環を考える上で重要である。そこで、本研究では陸上から有機物、海から硫酸イオンの供給される干潟において、環境要因と硫酸還元菌の群集との関係を調べた。
調査は北海道鵡川町の干潟で2009年10月に行なった。鵡川河口干潟は海岸浸食により消失した干潟を再生することを目的として平成12年から平成14年にかけて造成された人工干潟である。環境要因について調査した結果、塩化物イオン濃度が堆積物表層間隙水中において約5.6 mMであり、海水の約535 mMに比べて低かった。同様に硫酸イオン濃度も堆積物間隙水中で最も高い濃度でも約1 mM であり、海水中の約28 mMより低かった。以上のことから、本研究サイトは海水による影響が少ないと考えられる。鵡川人工干潟では陸上由来の有機物は蓄積するが、海水の浸入が少なく硫酸還元菌の硫酸イオン利用に制約のある環境であることが示唆された。この環境に生息している硫酸還元菌についても分子生物学的手法で調査を行なった。本発表ではその結果についても報告する。