| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-307
熱帯、亜熱帯域の干潟や河口付近における潮間帯(海水と淡水が混じり合う汽水域)に生育するマングローブ植物は、常に嫌気状態でかつ高塩分下におかれた土壌に適応するため、呼吸根や通気組織ならびに塩類の分泌組織を発達させる。ヒルギダマシ(Avicennia marina)は海水の吸水とともに、体内に蓄積された塩類を葉面にある塩腺といわれる塩類の分泌組織より直接体外に排泄するため、高い耐塩性を有している。また、胎生種子の発芽後、2成長期経過後には呼吸根を顕著に発達させる。そして、最も潮汐の影響を受ける海側最前面に帯状分布の群落をつくることが本種の特徴のひとつである。日本におけるヒルギダマシの分布北限は従来、宮古島といわれてきたが、ここ数年来、沖縄本島においても生育分布するのが新たに確認されている。
そこで、ヒルギダマシ胎生芽の定着と実生稚樹の分布域拡大要因の解明を目的に、植栽起源の母樹から自然散布された胎生芽によってヒルギダマシの群落が形成されつつある干潟の埋立て地護岸から、一定の距離ごとにコードラートを規則的に配置し、コードラート内の成木、稚樹の位置、それらの樹高、幹直径、枝張り、成木ならびに稚樹の側根から地上方向に発生する呼吸根数を計測し、成木、稚樹、呼吸根の密度、樹冠面積を算出した。
その結果、海水の流れのあるヒルギダマシ群落において、胎生芽が群落より遠くに流されずに、群落内に集中的に定着できるのは、呼吸根に胎生芽が引っかかることにより、移動が固定されることが原因で発芽・定着が促進された。ヒルギダマシ胎生芽の定着には、成木あるいは稚樹の呼吸根密度の大小が強く影響することが認められた。そして、群落としてのヒルギダマシの成立密度が高くなり、側根の側方伸長によって呼吸根密度が増大することで、帯状に生育域が拡大するものと考えられた。