| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-321
気候変動による高木樹種の分布上昇が予測されているが,森林帯による光などの環境条件の差異により,気候変動に対応した分布上昇は種によって程度が異なると考えられる.そこで本研究は幼木を指標として,将来的な気候変動に対する高木樹種の反応と,それに対する森林帯垂直分布構造の影響を評価した.
調査は静岡市内およびその周辺において0.05haの方形区を標高130〜2700mの尾根上に50箇所設置し,毎木調査を行った.高木種の種子生産開始は概ね林冠到達後であるため,幼木を亜高木層に出現した個体群の平均DBHより小さな個体と定義した.総出現個体数が20本以上の樹種のみを対象として,幼木の本数と親木のBAに見られる標高分布域の差異を解析した.
調査地の森林帯構造は,低標高側から照葉樹林帯,温帯針葉樹林帯,夏緑樹林帯,ブナ林帯,亜高山針葉樹林帯となっていた.総出現個体数が20本以上の樹種は23種あり,このうち幼木の平均標高が親木に比べて高標高側にずれていた種が17種見られた.幼木と親木の標高差は全体の平均が41mで有意に0よりも大きく,高木樹種の幼木は高標高側に侵入していた.しかしブナ林帯を形成するブナ等の種では,幼木の平均標高は親木より低く,将来的な温暖化の進行に対してスムーズな分布域の上昇は困難であることが示唆された.
全体的な幼木の高標高側への侵入には,気候変動と,高標高側の森林帯ほど林内の光環境が改善するという森林帯垂直分布構造による影響が考えられる.しかし幼木の侵入度合いには各樹種で違いがあった.これは分散制限による影響のほか,森林帯垂直分布構造による影響として,高標高側の森林帯における林床環境の変化など,幼木の定着を阻害する要因の存在が推察された.