| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-322
ナラ類集団枯損(ナラ枯れ)は,1980年代以降東北から近畿の日本海側を中心に拡大し,ナラ類を優占種とする林分が被害を受けており,林分構造への影響が懸念される.本研究では,ナラ枯れを受けた場合を想定しその後の遷移の方向を予測するために,兵庫県内の里山地域に広く分布するコナラ−アベマキ群集およびコナラ−オクチョウジザクラ群集において,2005〜2009年に得られた植生調査資料のうち,高木層の優占種がコナラであった582地点について,この高木層のコナラがすべて枯損したと仮定し,その後の林分構造への影響を予測した.コナラ以外の高木層や亜高木層或いは低木層に出現する構成種とその生活形を指標とし,枯損した後に成立すると考えられる林分構造を以下の5つのタイプに区分した.すなわち,Type1:落葉の林冠構成種が存在し,夏緑二次林が維持される林分,Type2:常緑の林冠構成種が存在し,照葉樹林化が進行する林分,Type3:林冠構成種は存在せず,当面は落葉低木が優占する林分,Type4:ソヨゴやネズミモチなどの林冠構成種以外の常緑小高木が優占する林分,Type5:林冠構成種やその他樹種も存在せず,階層構造が貧弱化する林分である.これら5つのタイプごとに兵庫県内での分布図を作成した結果,夏緑二次林維持林分(Type1)は,582地点中456地点と最も多くみられ,県内全域に広く分布した.また,常緑小高木優占林分(Type4)と階層構造貧弱化林分(Type5)は,地点数は少ないものの,中国山地より以南に偏って分布する傾向がみられた.これらの林分では,枯損前の林分構造が大きく変化し,遷移から逸脱してしまう可能性がある.現在,ナラ枯れは南下傾向にあることから,この地域に分布する林分構造への影響が大きい林分については,早急に林分構造の改良を図っておく必要があると考えられる.