| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-327
九州大学宮崎演習林が擁する冷温帯林の林床は、過去ほぼ全域に渡ってスズタケ群落に被われていたが、近年増加したシカの採食によって急速にその分布は狭まっている。ここで2002年より、林床にスズタケ群落が残る林分(S1)、スズタケ群落が消滅した林分(S2)、スズタケ群落が消滅した林分を皆伐した跡地(S3)、の3サイトで実生の消長を追跡してきた。
その結果、どのサイトにおいてもシカによる採食が確認され、ほとんどの実生個体が成長できていないことが分かった。また、スズタケ群落が消滅したサイトでは実生の発生数が多く、スズタケ群落が残るサイトでは実生の発生数が極端に少なかった(Murata et. al. 2009)。つまりスズタケによって種子の発芽が抑制されており、スズタケの消滅によって発芽してきた実生個体は、ほとんどがシカに採食されていた。
スズタケのような林床のササ群落は、これまで森林の更新を妨げる要因としてのみ捉えられることが多かった。しかし、ササ群落によって発芽が抑制された種子が、もし埋土種子として温存されるのであれば、現在のようなシカによる採食圧の高い時期においては、むしろ採食による群落の個体数および種数の減少を先延ばしする効果が期待される。
そこで、土壌中の発芽可能な種子の個体数と種組成を調べるため、上記3サイトから採取した土壌サンプルを同一条件下に播き出し、発芽してきた実生の数と種名を記録した。結果は果たして、高木、低木、つる、それぞれの個体数、種数ともに、S1>S2>S3の順であり、スズタケ群落の存在によって土壌中に種子が発芽しないまま保存され、シカの採食を免れていることが分かった。