| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-342

シカ生息密度の異なる森林間での3年間の樹木個体群動態比較

*幸田良介(京大・生態研), 藤田昇(京大・生態研)

近年日本各地でニホンジカの生息密度増加による森林植生の衰退や森林更新の阻害が問題となっている。鹿児島県屋久島においてもヤクシカの生息密度が増加しており、森林への影響が指摘され始めている。一方でヤクシカ生息密度がどの程度以上になると森林に影響が生じ始めるのかは明らかになっていない。屋久島の貴重な自然を保全するうえでこのような情報を得ることは非常に重要である。そこでヤクシカ生息密度の異なる3ヶ所の森林を選定し、各森林におけるヤクシカ生息密度と3年間の稚樹動態を調べることで、ヤクシカが森林植生に与える影響を考察した。

2006年に島内に3ヶ所の調査地を選定し、樹高30−130cmの木本樹種の毎木調査を行った。2009年に再調査を行い、各調査地において樹種ごとに生長率、死亡率、新規加入率を計算した。またヤクシカによる食痕の有無を記録し、食痕頻度から嗜好性を判別した。加えて2008年に糞塊調査から各調査地におけるヤクシカ生息密度を推定した。

各調査地でのヤクシカ推定密度はそれぞれ、74.2、14.4、2.5/km2であった。各調査地での樹木個体群動態をみると、ヤクシカ生息密度の最も高かった調査地では、特に嗜好性の高い樹種において高い死亡率や低い生長率、樹木本数の減少がみられた。一方で他の2ヶ所の調査地においては採食頻度に大きな違いがみられたものの、嗜好種においても生長率や死亡率にはほとんど差はなく、樹木本数の減少はみられなかった。このことから屋久島においてヤクシカは生息密度15/km2程度までは森林更新にほとんど影響を与えないと考えられた。本土ではシカの生息密度が5−10/km2以上になると森林植生に深刻な影響が生じると指摘されているため、ヤクシカは比較的森林植生に与える影響が小さいと言える。今後はこのような差異がみられる原因をさぐっていくことが必要だろう。


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