| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-005
下層植生がほとんど存在しなくなった森林においても多数のシカの生息が報告されている。このような地域ではシカの体サイズの小型化や妊娠率・幼獣の生存率の低下が観察されているが、高密度を維持する充分な食物量が存在していることが考えられる。本研究ではシカが高密度で生息している東京都奥多摩において、下層の植物および枯死体の現存量を測定し、食物量を推定することで、下層植生がなくなった森林にシカの食物資源が存在するか明らかにした。方法:落葉広葉樹林、針葉樹林、防火帯、伐採跡地、常緑広葉樹林から12地点を選定し、シカの採食を防ぐケージを1調査地に6箇所ずつ設置し、設置30日後にケージ内の1.0m×1.0mの範囲で植物種、部位ごとに刈り取り、リターを採取して乾燥重量を測定し植物資源量とした。それぞれN含量とNDF含量(繊維量の指標)を測定し、シカが生存する上で最低限必要と考えられるN含量を基準に植物資源量から食物量(利用可能量)を算出した。調査は夏季と冬季に行った。また、枯死体を食物として利用できるのか、落葉及びそれに近い繊維含量を持つチモシーを飼育個体に採食させ採食量を比較した。
結果とまとめ:植生相によっては植物資源量と食物量が大きく異なり、例えば6m2あたりの植物資源量は夏季の伐採跡地が965g、落葉広葉樹林は170gであったが、食物量はそれぞれ175g、120gになった。食物中の枯死体の割合は夏季・冬季ともに落葉広葉樹林が特に高くどちらも98%以上であった。また、シカの落葉の採食量はチモシーの61〜97%になったことから、シカは落葉を食物として利用できる可能性が示唆された。これらの結果から下層植生がほとんど存在しないような森林では枯死体が重要な食物資源となっていると考えられた。