| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-008
アリ類に植物体の一部を巣場所として提供し、それらのアリ類と密接な相利共生関係を結ぶ植物種は「アリ植物」と呼ばれる。熱帯域では、このように特殊な進化を遂げたアリ植物が多く見られ、それらは広い分類群にわたっている。東南アジア熱帯雨林を中心に分布するオオバギ(Macaranga)属は、アリ植物を20種以上含み、アリ植物のオオバギは、それぞれの種と特異的な共生関係をもつアリ種(主にCrematogaster属)に、巣場所となる中空の茎だけでなく、餌となる栄養体を分泌して提供している。一方、共生アリはオオバギ上のみで生活して植食者などからオオバギを防衛しており、アリ-アリ植物オオバギの間には相利共生関係が成立している。さらに、アリの巣であるオオバギ茎内部には半翅目昆虫であるカイガラムシ(Coccus属)が共生している。アリ植物内にカイガラムシが共生する例は多くの分類群で知られており、カイガラムシはアリ植物とアリの共生系において重要な役割を担っている可能性が考えられる。しかし、茎内部に生息しているカイガラムシの生態解明は困難であり、カイガラムシの役割はこれまでにほとんど明らかにされてこなかった。本研究では、オオバギの実生を用いてカイガラムシの有無を操作する実験を行い、本共生系におけるカイガラムシの役割について検証した。その結果、カイガラムシを導入したオオバギ株内ではオオバギの成長に伴いアリの個体数が増加したのに対し、カイガラムシを導入せずにカイガラムシ不在状態を維持したオオバギ株ではオオバギが成長してもアリの個体数は増加しなかった。このことから、アリのコロニー成長にはカイガラムシが必要であり、共生カイガラムシの存在はアリ-アリ植物オオバギ共生系の維持に不可欠であると考えられる。