| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-018

ヤクシカの採食が常緑低木ボチョウジの葉の動態に与える影響

*野邊麻梨子, 相場慎一郎(鹿児島大・院・理工)

世界自然遺産に指定されている屋久島において、近年ヤクシカの爆発的増加による植生破壊が危惧されている。本研究は、ヤクシカの採食が下層樹木に与える影響を明らかにすることを目的とし、低地林の常緑低木ボチョウジを1年間観察して、採食圧の異なる枝の葉の動態を比較した。観察した枝131本におけるヤクシカによる被食葉数の割合は、年間の平均で各枝0〜68 %であった。これらの枝を、被食が全くない枝(被食葉数割合0 %)、被食が低程度の枝(1 %〜13 %)、被食が高程度の枝(14 %〜69 %)の3つの集団に分け、それぞれの1年間の季節的動態を比較した。被食なし集団の枝あたり年平均葉数は9.6枚、低程度集団が12.4枚、高程度集団が8.8枚であった。被食葉数割合と葉数には有意な負の相関が見られず、被食程度の高さが葉数の減少を招くとはいえなかった。枝あたり年平均展葉速度は、被食なしが5 %、低程度が6 %、高程度が8 %であった。被食葉数割合と展葉速度には有意な相関が見られた。枝あたり年平均落葉速度は、被食なしが4 %、低程度が5 %、高程度が9 %であった。被食葉数割合と落葉速度にも有意な相関が見られた。展葉速度と落葉速度には有意な相関が見られ、落葉が盛んな枝は展葉も盛んに行っている可能性が考えられた。

3つの集団で共通していたのは、1)年間を通じて展葉と落葉を行う順次開葉型の動態を示した、2)展葉は6月と9月にピークがあり3月から4月にもっとも減少した、という2点であった。大きく異なっていたのは、1)中程度>低程度>被食なしの順に年平均展葉速度が高かった、2)被食なしと低程度の枝では落葉の季節的動態がほぼ同じだが、高程度の枝のみ盛んに落葉が起きた、という2点であった。


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