| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-024
植物は外敵から身を守るため、様々な物理的・化学的防御の形態を有するが、フィンランドのカバノキ属樹木では、この両方の機能を併せ持つGlandular trichome(腺毛)という被食防衛物質の存在が報告されている(Valkama 2004)。そこで、本研究では日本のカバノキ属樹木であるシラカンバとウダイカンバの葉の腺毛からの分泌物(化学的防御物質)に着目し、これらの分泌物の季節的な変化と樹木葉の成長との関係から、樹種による被食防衛能力の違いを比較した。
サンプリングは、冬芽段階の3月から落葉する10月まで定期的に行った。葉のエタノール抽出・ヘキサン抽出後、高速液体クロマトグラフィーとガスクロマトグラフィーによる化学物質の定量分析を行った。その結果、シラカンバとウダイカンバに共通して、腺毛から分泌されていると思われる化学物質の分泌量は開葉初期で高く、その後落葉するまで除々に減少していった。しかし2種の間で分泌量にかなりの違いが見られ、シラカンバはウダイカンバより分泌される化学物質量が非常に多かった。逆に葉の成長速度は、ウダイカンバがシラカンバを上回っていた。野外においてシラカンバとウダイカンバの食害量を比較したところ、シラカンバはほとんど食害ダメージがなかったのに対し、ウダイカンバは季節を通して食害ダメージが高かったことから、腺毛から分泌される化学物質の分泌量が食害ダメージの大きさを決める要因の一つと考えられる。以上より、同じカバノキ属樹木であってもコストを防御に投資するか、葉の成長に投資するかは種によって異なり、葉の防御と成長とのトレードオフ関係が葉表面の化学物質分泌量と開葉速度の間で見られることが示唆された。