| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-117

家庭で変わる!子の育て方:遺伝的性決定が親の投資戦略に与える影響

川津一隆(京大院・農・昆虫生態)

最適投資理論によると,子の適応度曲線に性差がある場合にはコストの高い方の性により多くの投資を行った親が有利となり(Frank 1990),そのときには頻度依存選択が働くため,安価な性に偏った一次性比が適応的な性配分戦略となる(均等投資の原理).しかしながら,遺伝的に性が決定する生物では子の性を産み分けることができないため一次性比の操作は難しく,その上,子の性が確率的に決まるため性比にばらつきが生まれることになる.したがって,親は様々な性比に応じて子への投資を調節する必要があると考えられ,最適投資理論の文脈からは性比のばらつきが親の投資戦略に影響を与えていることが予想される.一方で性配分理論においては,集団中の性配分が平衡状態にある限り個々の性比のばらつきは個体の適応度に影響を与えないという主張がなされており(Kolman 1960),最適投資理論と性配分理論の間には“性比のばらつき”に対して予測のズレが存在している.

これまでの最適投資・性配分理論において,性比のばらつきと適応度の関係を調べる場合に親の投資戦略の進化を明示的に取り扱った研究は存在しない.そこで本発表では,以上のことを考慮したESSモデルとそれに基づくシミュレーションモデルを作成し,性比のばらつきが最適投資量に与える影響を調べた.またモデルでは,投資様式の違いを表現するため投資イベントを,1)一次性比の推定,2)投資時の性の判別,の2つにわけ,それぞれが可能・不可能な4種類の場合の比較も行った.その結果,‘ある’条件下では一次性比のばらつきが子への投資量に影響を与えており,また,その効果はそれぞれの投資様式によって異なっていた.以上の結果は,性比のばらつきが親の投資戦略に影響を与えていることを示している.さらに発表では,これらの結果に基づき様々な分類群における性配分パターンと性比のばらつきとの関係についても考察する.


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