| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-120
宿主集団の有する空間構造が,感染動態に大きな影響を与えることが知られている.このため現実の感染症流行予測や防疫政策立案を行うためには,交通流等の社会的空間的ネットワークを考慮した感染症数理モデルを構築することが重要となる.そこで本研究においては,大都市圏に新型インフルエンザ等の感染症が上陸した際に,通勤・通学等の交通流動ネットワークに乗って伝染していく過程を数理モデルを作成することにより解析を行う.
大都市圏内における人口動態を定量的に把握するために,国土交通省が5年毎に行っている大都市交通センサス・データを用いた.これは,首都圏,中京圏,近畿圏の三大都市圏における鉄道・バスの利用状況を,利用者へのアンケート,公共交通機関の定期券・乗車券発券データを基に調べたものである.この内,鉄道輸送データを基に大都市圏内の通勤・通学人員の流れを推測した.
感染動態は各駅間利用人員を感受性状態(S),感染状態(I),回復状態(R)の3状態に分けたSIRモデルにより記述した.各人員は居住地と勤務・就学地間の交通ネットワーク上を通勤・通学に伴い往復するものとした.感受性個体は感染個体と出会うことにより感染確率βで感染個体へと遷移し,感染個体は回復率γにて回復個体へと遷移する.これらの時間変化を常微分方程式により記述し,数値計算を行うことにより,感染症が侵入してきた際の交通ネットワークを介した流行過程を理論的に再現することが出来た.さらに今後は,個体ベースモデルを用いた感染動態の解析を行う予定である.これらのモデルを用いて,感染症の侵入条件,交通ネットワーク上の侵入位置による感染動態の違い,防疫政策(抗インフルエンザ薬,ワクチン)の効果等について議論したい.