| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-211
農業害虫や外来生物といった生物の個体数を制御する方法の一つに、天敵を利用した生物的防除がある。持続的な天敵利用を成功させるためには、天敵が絶滅しないように維持し続ける必要があるが、実際には天敵効果(捕食圧)の維持が難しい。なぜなら、標的生物の減少により、天敵の餌不足が起こることが予想されるからである。従って、天敵の餌を安定供給できれば、天敵の個体数を維持できると考えられる。しかし、そのような餌生物を維持し管理することは容易でない場合が多い。そこで本研究では、(i) 天敵だけが出入り可能な「餌場」において標的生物そのものを餌として飼育し、さらに(ii) 餌場内に天敵も侵入できない「避難所」を設けることを考案した。これら(i)と(ii)により、(iii) 天敵と標的生物(餌場内)の両方を維持し、(iv) 餌場の外の標的生物を減少させ低密度に抑えることを試みるものである。この手法は、餌場内の標的生物と餌場外の標的生物との間に、天敵を介したapparent competitionを生じさせ、餌場外の標的生物の個体数制御を試みるものである。
モデル系としては、アズキゾウムシ(標的生物)と、その天敵である寄生蜂ゾウムシコガネコバチを想定した。餌場内のアズキゾウムシに与えるアズキ量と、餌場外でアズキゾウムシに食害されるアズキ量の総和を最小にすることが目的となる。
数理モデルによる解析を行った結果、想定しているシナリオ((i)、(ii)により(iii)(iv))が実現可能であることが示された。すなわち、アズキゾウムシと寄生蜂(別の害虫‐天敵の系でも可)の相互作用や生活史のパラメーターが条件を満たす場合には、実際の系においても、餌場外のアズキゾウムシの効果的な防除が可能であると考えられた。