| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-213
イネシンガレセンチュウ個体群の年次変動
星野 滋(広総研農技セ),富樫一巳(東大院・農)
イネシンガレセンチュウ(Aphelenchoides besseyi)(以下,線虫)はイネの外部寄生者であり,線虫は種子間で集中分布を示す。この線虫はほたるいもち病を引き起こす。新規購入イネ種子を育苗・移植した場合,線虫は殆ど発生しないが,その収穫物で栽培を繰り返すと2〜3年後に大発生が起こりやすい。そこで,線虫の個体群動態を解明するため,2003年に線虫に感染した種子を使って,育苗・移植・収穫を行い,翌年から収穫された種子の一部を使って2009年まで毎年同一水田で栽培を繰り返した。3段抽出法により種子を抽出し,星野・富樫法(1999)で線虫数を調査した。その結果,2004年と2008年にピークを持つ減衰振動を示した。7年間にわたる線虫密度と分布の関係をみると,種子内線虫数が多くなると,線虫のいる種子の割合が高まり,分布集中度は低下した。一方,種子内線虫数と死亡率の逆密度依存的関係はピーク年以外で見られ,分布集中度の増加とそれに伴う種子内線虫数の減少によると示唆された。線虫の種子内密度とほたるいもち平均発生茎率の間に正の相関があったが,有意ではなかった。連続する2年間の線虫密度の間の関係をみると,密度1.7以上では回帰直線の傾きが約29.4°となり,そのためピーク時から密度は徐々に減少したと考えられた。この変動様式の解明のため,イネ苗を植えたポット内の水に密度を変えて線虫を放した結果では,ある初期密度以上でないと出穂中の花芽内への線虫の侵入は難しかった。開花中の花に線虫を接種した結果,接種の1週間後に線虫数は増加していたが,その後減少した。また,花への接種密度の増加とともに線虫の増殖率は減少した。これらより,花〜種子内での線虫密度の変化が減衰振動に寄与することが示唆された。