| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-217

クロヒカゲとヒカゲチョウの棲み分け機構:配偶縄張での繁殖干渉に注目して

井出純哉(京大・理)

動物の棲み分けを引き起こす機構の一つに直接的干渉による競争排除がある。他種への干渉の強さと干渉された際の耐性が競争している二種間で異なっている場合に、一方の種が排除されると考えられる。従って、干渉が棲み分けの原因かどうかを明らかにするためには、干渉の強さと干渉への耐性が種間で非対称なのか調べる必要がある。

クロヒカゲとヒカゲチョウは近縁の蝶だが、生息場所が微妙に異なっている。これまでの研究から、両種の雄の配偶縄張での種間の直接的干渉によって、ヒカゲチョウが排除されているらしいことが分かって来た。そこで、両種の縄張行動を観察し、防衛行動の激しさ(すなわち干渉の強さ)が種間で異なっているか検討した。

この二種は雑木林の林縁部の木の梢に雄が縄張を構え、近付く物体があれば追飛する。飛び立ってからとまるまでの追飛の時間を測定した所、クロヒカゲ同士の追飛はヒカゲチョウ同士の約7倍もの時間続いており、クロヒカゲの方が激しく縄張防衛を行なっていることが明らかになった。クロヒカゲの縄張にヒカゲチョウが侵入した時の追飛はクロヒカゲ同士の追飛よりずっと短かったが、ヒカゲチョウ同士の追飛と同程度の長さだった。従って、ヒカゲチョウにとってクロヒカゲは別種にも拘らず同種と同じ程度に追飛をして来る存在であり、干渉から受ける影響も大きいと推測された。ヒカゲチョウの縄張にクロヒカゲが侵入した場合の観察はできなかった。しかし、ヒカゲチョウが同種に対するのと同じように追飛したとしてもクロヒカゲにとっては非常に弱い干渉であり、影響は小さいと予想される。以上の結果は縄張での干渉によってヒカゲチョウが排除されている、という予測を支持するものと言える。


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